対談/vol.6

しょくスポ対談

vol.6 臼井 義雄 さん

vol.6のゲストは、アスレティックトレーナーとして現在、現場や教育の場でご活躍されている、臼井義雄さんです。アスレティックトレーナーの世界でトップを走り続けてきた臼井先生。これまでのスポーツ界を支えてきた存在と言っても過言ではありません!トレーナーの技術はもちろん、人柄も非常に魅力的な臼井先生に、これまでのご経験から感じたことや、“一流”であり続けるために実行していること、そして「食」についてもたっぷりとお伺いました。是非ご覧ください!

臼井 義雄(うすい よしお)


1949年生まれ。東京都出身。(財)日本体育協会公認アスレティックトレーナー。鍼灸師・あん摩、マッサージ、指圧師・柔道整復師。静岡県体育協会スポーツ医科学委員。静岡県体育協会アンチ・ドーピング委員。
1969年より、元 読売巨人軍トレーナーである 故 小守 良勝氏・故 井上 龍男氏に師事し、トレーナー活動を開始。三菱重工サッカー部(現浦和レッズ)、ヤマハ発動機サッカー部(現 ジュビロ)、日本楽器硬式野球部トレーナー、東京読売巨人軍トレーナーを経て、現在ヤマハ硬式野球部アスレティックトレーナー、静岡県軟式野球県代表アスレティックトレーナー。
また、2001年より専門学校浜松医療学院にて教壇に立ち、現在学院長を務める。
その他、冬季札幌オリンッピク 本部医務班トレーナー、世界選手権 体操 ソフィア大会トレーナー、サッカー高校選手権及びインターハイ、春の選抜高校野球帯同などトップアスリートのサポート経験も豊富。

☆ 専門学校浜松医療学院 HP
※プロフィールは対談公開時(2007年7月9日)の
  ものとなります。

トレーナーになるまで

-臼井先生の現在のお仕事はどのような内容ですか?
今は専門学校の教務が主体ですが、週に一度、ヤマハの公式野球部で、現場のトレーナー活動を行っています。
-そもそも、“トレーナー”というお仕事を目指されたきっかけはなんですか?
高校時代サッカーをしていたのですが、2年生の初め頃に腰痛になってしまい、それが原因で半年程練習が出来なくなったんです。その時は治療をして、また部活には出れたのですが、それほどの選手ではありませんでしたから、マネージャー的な仕事を任されていたんです。その頃からこのような仕事を若干担当していたんですよね。
-なるほど。学生時代から関わっていたんですね。
ただ昔はトレーナーというものは今ほど認知されていませんでした。学校は今みたいにアスレティックトレーナー学科なんてありません。ですので昼間は鍼灸按摩マッサージの学校。夜は柔道整復師の資格を取るために夜間の学校に通って、1日に2つの学校を股に掛けて勉強していました
-高校時代にマネージャー業をやっていた頃からこの仕事に就きたいと思われていたのでしょうか?
その時はまだはっきりした目標ではありませんでしたね。こんな仕事があるのかな、と言うレベルでした。
-昼間と夜間と両方学校に通われて、かなり体力的にも勉強面も大変だったんじゃないかと思うんですけれど…。
体力よりも勉強ですね。中高で習ったものではなく、全く新しい学問でしたから。だから最初は面を喰らってしまったというのが現実です。
-学生時代のサッカープレイヤーとしての経験が体力づくりに役立っていた訳ですね。ところで、私の臼井先生の印象としては“野球のトレーナー”というイメージが強いので、学生時代は野球をやっていらっしゃったかと思っていました。
もともと最初は今の浦和レッズ、三菱重工のサッカー部でトレーナー活動を始めたんです。そして約5年程そのチームに携わりました。そこに静岡出身の杉山さんという方がいたんですが、その方が現在のジュビロ磐田、当時のヤマハ発動機の指導者になるということで、私も一緒にヤマハに来ました。              
-それがヤマハに来られたきっかけなんですね。
そうです。だからサッカーのトレーナー活動は約15年ですかね、三菱で5年、ヤマハ発動機で10年。

目指すは“感性豊か”なトレーナー

-教育の場合も、トレーナーをされている場合も常に“人と向き合って”いますよね。人の体に触れたり、目を見て話したりなど、“人と接する時”に気を使われていることが多々おありだと思うのですが。
そうですね。気を使うというよりも、これは僕が師事を受けた先生の教えなんですが、やはり人は機械ではない。感情を持った人たちとお付き合いしなければいけない。だから「感性を豊かにしなさい」という指導だったんです。だからそのまま僕も感性を大事にするというのがポリシーというか、そういう考え方で今も行っています。
-例えばどんな風にですか?
選手の心理面、要するにスランプに陥った選手のケアもしなければいけない。それから大きな試合の時の過緊張の選手をコントロールする。今は大丈夫ですが、若い時は気を使いましたね。毎日の練習のコンディションを見る前に、選手の姿勢を見ながら、この選手は胸を張ってグランドに出てきているのか、うつろ加減で出てきているのか、観察から感性に入っていく感じです。そう、まさに観察ですね
-観察、すごくわかります。
でもそこがないと声掛けができないんです。「今日どうしたの?元気ないね?」というような。逆にいったら試合前にテンションが高すぎる選手もいます。そういう選手をどうベストの状態に持って行くか。野球だったら、やはりバッテリーやピッチャーがかなりナーバスになっているんです。その時にどう感じて、どうテンションを上げるか下げるかと言うことを、やはり感性を持たないと無理だということを師事された先生が言っていたものですから。

▲選手から厚い信頼を受けている指導
-もっとも、ですね。
やはり『感性』っていうのは一番大事な考え方かなと僕は思います。ですから学生にも、機械じゃない、感性を持ったトレーナーになってほしい、ということを日頃から言っています。
-そうですね。やはり技術的、能力的に優れたものをお持ちの先生方でも、やはりその声掛けが上手にできないと選手の心を開いてあげることができなくて、治療がうまくできないことが多いですよね。
その通りです。テーピングが上手、マッサージが上手、それは当たり前。それだけじゃだめなんです。それ以外に声掛け。要するに『コミュニケーション』。『コミュニケーション』って簡単に言いますが、やはりその難しさ、大切さ、そして人の痛み、苦しみが分からないと、『one wayですよね。こばた先生もわかるんじゃないですか?
-はい、とてもわかります。今までもいろいろとそのような経験をしてきました。
今、選手たちが疲れた状態にいるのか、お腹がいっぱいの状態にいるのか。栄養学も然り、トレーニングも然りですね。でもどうしても若い栄養士や若いトレーナーは焦ってしまうんです。例えば水分補給、水分補給はどちらかというと乾いてからだと遅いから、こまめに飲みなさいという指導ですが、水を飲み終わった選手にまたすぐ「水を飲みなさい」というのは違いますし、これもまたタイミングを見計らわなければいけない。自分の気持ちの余裕が大切ですよね。たぶんそれも感性の一つに入ってくるんだと思います。それが信頼感に繋がっていくのかな。one way』ではいくら良いことでも受け入れられませんから
-確かにその通りですね。

自分の技術を活かすコミュニケーション

-今では「臼井先生のようなトレーナーになりたい」という若い方が多いのですが、先生にも若い頃は失敗がありましたか?
失敗と言うよりも、無我夢中で周りが見えていない、客観的に見れていないことがありました。僕たちの仕事はテクニカル的にミスをすると、なかなか同じ職場にいれませんので、それよりも先ほど言った『コミュニケーション』でミスはしたかな、と思います。その時は選手も若いし、私も若い。無我夢中でやってきたからだとは思うんですけど。

-コミュニケーションの部分で、こちらの想いが先走った、という感じですか?
そうですね。先ほど言ったように“コミュニケーションの大切さ”は分かっているんですけど、本質的な大切さがなかなかわからなくて。それで『one way』 になってしまい、選手も僕の気持ちを分かってくれない。だから信頼関係がなかなか築けませんでした。でも信頼関係というものは長年の積み重ねですから、すぐできるものではないんですね。崩すのは1回ですけど。だから信頼関係はやはり時間をかけて、お互い理解し合って、ということになってくるのかな。僕は技術面では当たり前にプロですが、それ以前に技術を活かすには、信頼関係、コミュニケーションかなと思っています。

▲指導風景

トレーナーは“パイプ役”

-例えばチームの中で、トレーナーの役割を考えると、選手とのコミュニケーションだけではなく、監督やコーチ、または食事を担当する栄養士とのコミュニケーションであったり、いろいろあると思うのですが、その点についてはどうお考えですか?
そうですね、監督やコーチの方とコミュニケーションを交わすことも大事ですが、もう一つ大事なことは、指導者と選手間のパイプ役になり、コミュニケーションをとることです。指導者の立場、選手の立場を理解しながら、パイプ役にならなければいけない。こばた先生が言われたように、栄養士の方ともコミュニケーションがないといけません。今選手はどういう状況で、どのような目的で練習をしているか、自分も、栄養士も理解し合わないといけない。それによって食事内容がまったく変わってきますしね。ですから管理栄養士の先生方、それから選手と医療ドクターのパイプ役にもならないといけません。
-それは本当に大切なことですよね。
それには仕事の役割だけではなくて、お互いの立場も理解しなければなりません。そのことはきっちり選手にも伝えなければいけないですし。
選手達の想いは一つなんです。でもその中で監督、指導者の想いと選手の想いのギャップが出ると不調が出てきてしまう。だからそのパイプ役は大きな仕事だと考えています。
-臼井先生の中では、トレーナー業務のうちの何%ぐらいが選手間や、指導者、他のスタッフとのパイプ役になる部分でしょうか?
コミュニケーションは仕事というより、仕事を円滑に進めるための手段ですね。ですから何%というのは難しいです。自分の仕事をスムーズに行うためには、厳しいトレーニングやアスレティックリハビリテーションをきちんと説明した上で、業務を進めていかなければいけない。また、監督に今の選手の状況、疲労やオーバーワークを伝え、このトレーニングは適していない、そういうことも話し合って理解していただき、練習量や内容をコントロールしてもらうこともある訳ですから、パイプ役は重要です。
-選手の食事について、監督とのやりとりをすることもありますか?
スポーツ栄養を理解されている指導者もいますし、テクニカルや戦術には長けているんですけが、その部分はあまり理解されていない方もいます…そこは仕方がないんですけどね。
-国柄、人柄は様々ですからね。
ですからそれの必要性を訴えるにはコミュニケーションは間違いなく必要です。僕が指導に行っているところでは、そこはプロ及びセミプロで既婚者が多かったので、管理栄養士の先生を呼んで、選手と一緒に奥様にも話しを聞いて頂きました。しかし指導者には「なぜ奥さんも必要なのか?」と尋ねられました。結局「選手の食事を作っているのは奥様ですから」と理解してもらいました。選手だけじゃなくて、サポートしてくださる家族や、寮の食事に携わる方との連携。これも一つのコミュニケーションですね。

意識=知識

-私のところにもたくさんの方から「どうしたらスポーツ栄養士として現場で活躍できますか?」といった問い合わせが来るのですが、いつも現場にいらっしゃる臼井先生からみて、どういう栄養士だったら現場で役立つと思われますか?
まずスポーツを理解していただける栄養士の方が必要ですね。先ほど言ったように、栄養的なことは十分理解しているけど、その知識を押し付ける『one way』は違います。選手は皆強くなりたい、うまくなりたいと当たり前に思っています。それには練習だけではなかなか強くなりません。だから理にかなった食事をとらなければいけない。ヤマハにも会社に管理栄養士の方がいて、僕は始めにその方に、「選手達に知識を与えてください」と伝えました。「選手はより優れた栄養価の食事を摂取しなければいけない」という知識ですね。選手は強くなりたいし、うまくなりたい。

▲感性豊かに選手をサポート
ただ、食事に関して嗜好が強すぎるので、なかなか知識がない人は意識が低くなってしまいます。いきなりメニューを持って行っても、多分大人の世界ではなかなか受け入れられないのが現実でしょう。これは長い経験の中で思いました。
-私も強く共感します。
ジャイアンツの時には、これを選手の奥さんにお伝えしました。たぶん奥さんが一番選手の体をコントロールできますし、そうなると奥さんの知識がないと意識が低くなる。僕の考えでは<意識=知識>だと思っています。知識が高い選手は自分から勉強して、「逆にこういうものはどうなんですか?」と聞いてきますから。意識が低い者は知識は全くないんだから出されたものを食べる。だからよく選手に「餌ではないんだから楽しく食べましょう」と伝えます。
-そうですね。
嫌いでも、ここはちょっと我慢しなければいけない、というのは練習も食事も一緒。苦手な、特に技術練習はやらないと追いつけません。食事も同じで、嫌いだけれども必要だから食べてもらいたい。ですから「食べてもらいたい」ということを伝えるために、例えば、「どんな正しいトレーニングをやっても、ガソリンはしっかり入れなければいけない」ということを選手に言うんです。「みんなはF1のマシンで、普通の乗用車じゃないだよ」と。「メンテナンスはF1用の工場の人がセッティングしてくれる。それが僕たちやコーチ。でも工場の人がいくら良いサポートしても、ガソリンが一番質のいいガソリンでなければ意味がない。それが食事なんだよ」とね。そういう風に話を噛み砕いて話しています。そうすると彼らもプライドがあるので「そうだ、俺達は草野球、草サッカーではないんだ」と理解します。そういう風に導入していくんです。でも話は元に戻るけど、若いうちは頭ごなしでしたね。そうではなくてそれを噛み砕いて伝えなければいけません。
-表現の仕方によって、相手の心に届くか届かないかがかなり決まってきますよね。子どもも、大人も。
僕は届くか届かないか、というより無駄な時間が必要だと考えます。少し噛み砕いてやれば理解してもらえますし。まず説明して理解してもらって、実際にアクション、食べるというアクション、トレーニングするアクションを起こす。そうすると必ず数字には出てきますから。あとは言わなくても、「こういう時期はどういうものを食べた方がいいんですか?」と、直接奥さんから連絡が来ます。そこからは僕の仕事ではなく、まさしく栄養士の先生とのパイプ役。「あとは栄養士の先生と、女性同士で直接話してください」と。でも栄養士の方はどういう知識があってどんな仕事ができるのか、という知識はこちらも持たなければいけません。栄養士だけでなくドクターの方についても。ここまでは自分たち、ここからは専門の方へ指導してもらって、それを僕達がサポートするという、これが僕の考え方だし、たぶん皆さんもそうかと思います。自分でなんでもできると思っていたら、チームにはいられません。これは間違いないです。監督の役割、コーチの役割、トレーナーの役割、栄養士の役割、それで選手のコンディショニングができているという考えです。

ライフスタイルの中の“無意識”

-臼井先生ご自身の食生活はいかがですか?
学校にいるときは朝9時半~夜9時半頃までいますので、昼、夜の2食が外食になってしまうんです。朝は家で食べますがあとは外食。
チームに行くと食事はマネージメントされていますから、学校にいる時のほうが食生活はよくないですね。チームにいる時は、決まった時間に食べて、約1時間前後休息をとって、そうして午後の練習に入っていく。特にチームのお昼の食事というのは非常に簡単なんです。ですから朝食べないと持たないし、お昼を多く食べると午後の練習が動けない。そういう指導もしていますし、それしか出さないんです。だからチームにいるほうがバランスが取れています。自分もこういう仕事で、こばた先生なりいろんな方に指導教育されていますから(笑)、できるだけバランスをとるようにしていますね。僕は食事は3つしか考えていないんです。
3つとは?
1つ目は栄養2つ目はバランス、そして3つ目はリズム、食べるリズムタイミングですね。お腹すいたら食べるのではなくて、やはりきちんと消化して吸収する時間帯に。そこだけの意識は普通のサラリーマンより高いかなと思います。
-運動についてはいかがですか?
自分の健康管理できない人間は、人の健康管理をするのは失礼かなと思っています。特に私たちがデモンストレーションしなければいけないんですね。「こうやって走りなさい」とか。「こうやって持ち上げなさい」とか。ですから週に3日程度、自宅から7キロくらいジョギングをしています。ストレッチは当然毎日やって自分の体調の一つの目安としています。ですからこの30年間体重とウエストは変わってないんですよね
-素晴らしいですね!
それはたぶん日々の生活の中のリズムにあるんですね。だから体重は65キロ。仕事内容によって63キロになることもあるんですけど。基本的には65キロ。あがっても66キロ。そこでちょっと上がったな、と思ったら運動するなり、食事制限するなり。1キロだから制限っていう程でもないんですけど。

▲常に真剣に取り組む臼井先生
でもそういうことは心がけているというよりも、今は無意識に、ライフスタイルの中に入っているのかな、と思います。
-本当に素晴らしいですね!

勝っても負けてもお疲れ様

-今までの30年間トレーナーのお仕事をされてきて、一番思い出に残っているお仕事、一番感動した瞬間はどんな時ですか?
感動しっぱなしです(笑)。常に感性をもって感動するってことがないと、仕事がマンネリ化になってしまうんです
でも、やはり大きいケガですよね、10ヶ月とか長い期間を経て選手が復帰し、ピッチに上がる。そういうときには非常に感動しますね。例えば10ヶ月間、ずっとケガをした選手と二人三脚できて、その間にいろんな辛いこと、人間関係で何かあるかも分からない。でもすべてはグラウンドに上がったときのためにあるんだと
あとは試合に勝ってもらうのがすごく嬉しいんですよ。それも一番ベストな状態で試合に臨んでくれたときに一番やりがいもあるし感動するかな。  

▲指導風景
-聞いているだけでこちらも感動です・・・。
ただこの年になるとだんだん感動も薄れてきちゃうんですよ。計算ができてしまいますから。しかも確実な計算。若い頃は無我夢中ですから計算なんてまったく!むしろ今感動することは、勝った負けたよりも、いかに満足して選手がプレーできたか、ですね。ですからそれもコミュニケーション。必ず試合が終わった後「勝っても負けてもお疲れ様」と思いながらケアをします。「どうだった?」と選手に聞いて、その時に「腰が痛かった」「肩が痛かった」といわれるとドキっとしますし、またもっともっと精進しなければいけないんだな、と思います。僕はよく言う“ゴットハンド”なんて、とんでもないと思っています。まずその選手のモチベーション、スキルがあって、戦術があって初めて結果が出たのであって、その中の一部分をお手伝いさせていただけたかな、と思っています。栄養士もトレーナーも裏方です。
-そうですね。
そういえば以前、静岡県内の中学校の駅伝代表チームのサポートについてくれと依頼が入り、ついたんです。全国に行けるレベルなんですが、その時に久々に感動したんです。“中学生の無心”ですかね。結果は2着だったんですが、ただそこまでのプロセスと、走り終わってからのなんというか…プロならそのまま能力あればまた来年頑張ろう、とできますが、中学3年生は卒業してしまいますからね。それは純粋に違う雰囲気があって。また中学生に教わったし。感動と言うか達成感を得ましたね。

全て本気でやりましょう

-最後に、臼井先生の仕事に対する信念、仕事を極める上で大切にされていることを教えて下さい。
一言でいうと、「全て本気でやりましょう」ということ。自己の目標の達成、チームの目標の達成、ステージは違うところにいますが、いつでも本気でやりましょう、と言うのが信念です。一生懸命頑張っても、相手も頑張っていますし。それがいかに本気になれるか一瞬のことに無我夢中になれるか、ですね。
-共感します。
あとは若い選手に言うんですけど、身分相応の仕事をしましょう、背伸びはしなくていいですよ、ということ。身分相応の仕事をやらないとトレーナーが全て食事、栄養のことをコントロールすることになってしまうし、逆にいったら今日の試合結果を反省ではなくて批判してしまう。自分達でできる仕事と、専門のドクターなどがする仕事、それを見極めていく。これは自分にも言い聞かせます。言い聞かせるから自問自答になってくるんです。「本当にこれでいいんですか?」「まだやることはありませんか?」と。僕はあんまり“反省”は好きじゃないんです。なぜこうなったかという課題は追求していきますが。僕の場合、反省はマイナス志向になってしまうんです。   

-なるほど、反省ではなく課題追求、ですか。
はい。たぶんこれをすると、失敗が少なくなるんじゃないかなと思います。だから思い起こせば、今まで大きなミスがなかったというのは、昔から一つの仕事が終わったり、一つの大会が終わると、反省というよりもこれからの課題はなんだろう、という自問自答を必ずしていました
反省ってどうしてもイメージが悪いほう悪いほうに・・・。よく選手にも反省するとマイナス志向がどんどん出てきてしまう人がいるんです。だから今回の課題はなんだろう、それに対してどう対策を練ろうか、と。これは僕の信念というよりもライフスタイルの一つになっているかな。いくらベストコンディションでも、やはりライフスタイルで、どれだけ準備できるかにかかっていると思います
-そうですね、自分の考え方、ライフスタイルから全ては決まりますね。
それは間違いなく積み重ねですね
でも食事教育を選手はなかなか学生時代できていないみたいですね。全ての学校という意味ではないですが。ヤマハでは入ってきたと同時に食事指導が入りますが、選手は皆うまくなりたいのは当たり前ですから、逆に一般の方より食事指導はやりやすいですね。モチベーションも高いですし。そういう感じで今まで仕事は繋がってきています。
-本日お話をお伺いし、30年間トップレベルでお仕事を続けられている秘訣が少しだけ分かったような気がします。
無理しないんです。そのままです。背伸びのびしても仕方がないですし。
-ご自分に厳しいということも感じられましたし、すごく努力をされていて、それが習慣になってらっしゃるとも感じました。
そうですね、やっぱりみんなわからないことは知りたいですよね。知るためにはテキストもあるし、でもテキストだけを鵜呑みにしていいのかな?ていうのもだんだん分かってくるし。だからうまくなりたい、知りたい、と繋がってくればテキストや参考書を広げる時間が当然増えてくる。あとはトップの選手、オリンピックや世界選手権に出場する選手、もちろんアマチュアの選手にも習うことが特に若い時はすごくありましたね。
-そうですね。私自身も関わらせていただいた選手から、いろいろ学ばせていただいてます。
今の若い人達については若干価値観が違うくらいで、昔も今も一緒かな、と思います。逆に自分のほうは停滞してしまっているような…。 でも最後には、よく選手にも言いますが「感謝」です。いろんな方のサポートがあって、オリンピックやワールドカップなど一つのことを成せる。それがないと、なかなか感性の豊かな選手になれないし、野球だけがうまいだけで人間性に魅力がありませんよ、となってしまいます。
-本当にそうですね。
今日はありがとうございました。とてもいいお話を伺うことができました。感動しました 。
よく言いますよ(笑)。
-いや、本当に。臼井先生のプロ意識の高さ、それが30年間続けられてきた秘訣だと思いましたし。
世渡り上手なんです。
-そんな(笑)!このお話はより多くの方に伝えたい!って思いました。本当にありがとうございました!

編集後記

何事にも真摯に向き合う臼井先生。今回の対談も、真っ直ぐに、私の質問にお答えくださりました。この姿勢があったからこそ、選手や関わってきた人達から、多くの信頼を得て来られたのだと思います。臼井先生にサポートしてもらった選手や講義・実技の指導を受けた学生は幸せだなぁ、とつくづく感じます。臼井先生の益々のご活躍を心より応援しております!そして今後ともご指導のほど、よろしくお願いします!
こばたてるみ
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