対談/vol.15
しょくスポ対談vol.15 竹村 吉昭 さん今回のゲストはジェイエスエスの競泳コーチ竹村吉昭さんです。
競泳の指導者になる
一言でいうと“縁”ですね。大阪体育大学を卒業後、非常勤で定時制高校教師を半年間やり、スキーに関する仕事で冬は白馬の民宿でお手伝いをしていました。その後、京都へ戻り職を探し、そこで目についたのが今いる会社です。面接を受けると、たまたま京都事業所の主任コーチが大学の先輩だったんです。 それでアルバイトとして入社し、1ヵ月後には正社員となりました。正直のところ当時、競泳の事はよくわからなかったんですが、水泳の指導は大学でも多少学んでいたのでなんとかできるかと…。しかし、入ってみると全くできないなと感じましたね。 -世界で活躍する選手を指導してらっしゃる竹村コーチにもそのような時期があったのですね。
いいえ、約1年京都に勤め、そのあと新潟の新規校オープンの話があり、新潟なら好きなスキーができる、かつ新規校なら直接責任者の元で勉強できると言われ、「行きます」と答えました。そこでは開校の準備段階からお手伝いをしましたが、新規の立ち上げは思いのほか大変でしたね。当時、新潟県内にスイミングスクールはありませんでしたから、スタッフはみんな新卒の学生か他の仕事をしていた水泳経験者ばかり。最初の話とは違って、責任者の方はいつまで立っても来ませんでした(笑)。でもそのお陰で、一から作り上げることの大変さを学びました。自分も経験はあまりないのに、アルバイトの研修や指導も行いましたね。
ところで、最初から勤務地は新潟県だったのでしょうか? -教えることは自分の力になりますからね、急成長に繋がったのではないでしょうか?
昔から教職に興味があり、体育の教師になることも考えていましたが、当時は教員の採用が全くありませんでしたので、こうして今があります。結局、水泳コーチとして3年働くつもりが30年経ってしまいました(笑)。
選手との出会い-こうして競泳の指導者へなられたわけですが、現在はJSSの強化委員長として選手の育成をしているのですよね?
去年の10月に引継ぎをして、年に数回の合宿の企画などこれからもっと色々やっていきたいと思っています。
-30年間の競泳のコーチ人生の中で、特に印象に残っている選手はいますか?
10年おきに選手の強化の方法は変わってきていますが、自分が一番長く付き合ってきた選手は「中村真衣」ですから、一番印象は大きいですね。彼女が小学校6年生から26歳の約15年間です。 それに彼女は世界でも活躍しましたから。
-でも、水泳指導者の中でも、世界で戦える選手に出会える方は数少ないのではないでしょうか?
日本でオリンピックのメダルを取った選手のコーチは最近では4人しかいないんです。本当にいい経験をさせてもらっています。 -もちろん選手本人の素質や努力も大きいと思いますが、コーチとの相性や指導法も重要だと思います。15年間も彼女を育て、心身共に成長する中で、指導法は変えていったのですか?
最初の頃は選手が先に伸びていき、選手に引っ張られましたね。そこから自分もその成長を続けさせるために何が足らないかと考え、時には自分が先へ行って引っ張ったり、選手に引っ張られたり…、その繰り返しではないですかね。自分の指導も磨かれましたね。-とてもやりがいのあるお仕事ですね。
元々教員を目指していたので、子どもたちが出来ないことができるようになる、その時の素敵な笑顔を見るのが好きですね。こういう子ども達のために仕事ができることはうれしいなと感じます。選手がベストを出した時の顔は一瞬ですが、どんな小さな大会でもこっちも幸せになれるし、選手もいい顔してくれます。-そうした笑顔のために先生は頑張れたと思うのですが、最初はどのように指導法を学んだのですか? 最初は、今まで一生懸命やってきた人達の練習方法を真似したり、資料を集めて読んだり、生理学的な事も自分でもう一度整理したりしました。水泳指導者の講習会へ行ったりもしましたね。-スポーツ栄養士もそうなのですが、机上の勉強はできても、現場でどれだけ選手の能力を引き出してあげられるかはテキストベースだけでは難しいと感じます。
やはり、その選手に合っていなければ何もならないですしね。ある時には上手くいっても、ダメな時もある。良いものは取り入れて、悪いものはもう一度考える。そういう繰り返しだと思っています。-一般的に競泳の選手は泳ぐ事だけの練習をしていると思われがちですが、実際にはどのような形で
水泳には水泳の特性があります。水の中にいる時間が長いですが、水泳では鍛えられない部分もあります。特に足腰を鍛えるとか。立って競技するものではないので、陸上でのトレーニングよりも足腰は弱くなります。トレーニングを行うのですか? そのために、陸上のトレーニングは大切です。足腰を鍛えるために走ったり、ウエートトレーニングや筋トレもします。 基本的に朝練習は5時半~6時に陸上トレーニングをし、6~8時は泳ぐ。 周に2回はウエートトレーニングもしますね。十分とは言えませんが取り入れています。もっと上のレベルへいくにはまだまだ足りないと思いますが、壊れない体作りが大切です。 -さらに強い選手を育てるには、メンタルケアもとても大切だと思います。 自分たちの目標を認識させ、そのために何をしたらいいか、今できているか、足りないものは何か…これらの繰り返しだと思います。最近は水着の変化の問題もあり、選手もコーチも戸惑いながらやっていますね。キツイ練習をこなすモチベーションを保つ秘訣はありますか? 人がもって生まれた性格、考え方を変えるのは大変ですが、あるべき姿へ変えられるかで選手が自信を持つことにつながります。そのバックアップが必要なのです。特に強くなり五輪に出るような選手になると、 人が周りで見ていて、注目され、評価される。そのため人の手本となり、行動をバックアップしてもらえるようでないと難しいです。そういう話しをしますね。 -日本で競泳は小さい子の習い事No.1ですので、続けられる環境が整えばトップになる選手が増えるのではないでしょうか?
日本では幼児・ジュニアを対象としたスイミングクラブがとても多いですね。その中から上へつながっていくケースも他の国よりは多いと思います。しかし、アメリカなどは日本とは全く違い、強化中心のスイミングクラブがあるんです。 競技人口の違いはあると思いますが。 -ところで、先ほどお話がありましたが、朝から陸上トレーニング、その後に泳ぐという練習はトップを目指している選手なら誰でも行うのですか?
これは最低ラインだと思います。いま私が見ている選手は全員レベルが高い、というわけではないですが、最低このくらいしていないとトップへは行けないですね。ベースがないと、その上の積み重ねはできないと思います。大学に入ればもっと厳しい。今やっていることは決してすごい事ではないんです。人よりかは時間をかけてやっているからこそ、進学してもある程度できるのではないでしょうか。 -やはり陸上トレーニングを入れることでケアができるのですね?
そうですね。以前、取り入れていない時にはハードな練習で肩の故障や腰痛持ちの選手もいました。中学、高校で身体の変化も大きい時期ですから。でも今はあまり聞きません。今はどのチームも陸上トレーニングをやっていますし、これがベーシックになっています。 -その他、選手を強くするために他に取り入れていることはありますか?
年頃の女の子は急激な体重の増加が起こります。4,5kg増えることも多いです。その時に記録の停滞は必ず起きます。努力していても同じ努力では記録も伸びない時がありますが、その時にさらに努力が必要だという事に気付くかどうか。なかなか難しいですが、栄養セミナーや食事アドバイスなどが受けられる環境をつくるように努めています。 選手と共にオリンピックへ
-そして見事、中村真衣選手はシドニーオリンピックで銀と銅メダルを獲得。アトランタ後の4年間も
新潟を離れ、中村の大学(東京)へ一緒について行ってトレーニング指導することができたのは、私にとってもいい経験になりました。長い間、選手を見続けることができましたから。普通は選手が高校へ行く時に手が離れてしまいますからね。
竹村コーチが指導されたんですよね。 家族への感謝
-親として、指導者として、色々な葛藤があったと思いますが、結果的に息子さんも竹村コーチと同じ道に就いたという事は、お父様のことを尊敬している証拠ですね。ステキな親子関係ですね。
一流指導者になるために大切なこと-ところで、最近の若い人達の中には、スポーツ指導者になりたいという人がたくさんいますが、実際に現場では大変なことも多いと思います。竹村コーチは仕事を辞めたいと思ったことはございますか?
選手と上手くコミュニケーションが取れずに苦しかったり、周りの新しい環境に入るのは大変ですが、色々やりながら仲間に入っていくことは必要なことですからね。昔は家内に相談にのってもらったこともありましたが、辞めたいとは思わなかったですね。突っ走っていましたね。止まるのが怖かったためか、走り続けていました(笑)。-本当に選手の指導がお好きなんですね。でも、辞めたいとまでは思わなくても、毎日、竹村コーチ自身がタイトなスケジュールで動いてらっしゃいますから、肉体的に辛かったり、時には練習メニューが間に合わない!なんて焦ることはございませんか?
それはありますよ。でも結局、翌朝早く起きて練習メニューを仕上げるなど、なんとかやりこなしますね。選手たちも、キツイ練習して、学校へ行って勉強して、頑張っていると思います。ならば、自分たちも頑張らないといけないと思いますね。仕事が思う通りにいかなくても、そこで諦めたら、選手にも申し訳ないので…。選手にも負けられないなと思いますね。
食事は長年、量もパターンも変わらずちゃんと食べてますね。普段は朝早かったりしますからそんなに深酒もしないですし。ただ、合宿へ行くと太ります。これは危険ですよね。 選手と同じように食べますから…(苦笑)。気をつけます(笑)。 -はい、がんばってください!
やはりもう一度オリンピック強化選手を輩出したいですね。最後に、今後の夢、目標をお聞かせください。 そのための基礎となる体作りをある程度、考えながらやっています。 -是非また何年後かにはオリンピックに出る選手を期待しています。
自分の年齢もありますし、難しいのはありますが。-いえいえ、諦めずに是非もう一度頑張って欲しいです。
はい。-今日は本当にありがとうございました。
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