対談/vol.11

しょくスポ対談

vol.11 大田原 透 さん

今回のゲストは、雑誌「Tarzan」編集長の大田原 透さんです。スポーツする人も、しない人も興味が湧いてしまう雑誌なのではないでしょうか。39歳の若さで編集長に抜擢された大田原さん。その“敏腕”編集長に、仕事術やご自身のライフスタイルについてお話を伺いました。「さすがTarzan編集長!」と感嘆してしまうほどの食・運動の取り組み方は必見です!どうぞお楽しみ下さい。

大田原 透(おおたわら とおる)


株式会社マガジンハウス「Tarzan」編集長
1968年4月東京生まれ。法政大学卒業後、91年マガジンハウスに入社。92年より「Tarzan」編集部に配属。
08年より編集長に就任。


Tarzan HP

※プロフィールは対談公開時(2009年3月6日)の
  ものとなります。

Tarzanはこんな雑誌です

-大田原さんが編集長を務める【Tarzan(ターザン)】はどんな雑誌ですか?
フィットネスやスポーツをライフスタイルに持っている方のための雑誌です。月2回、マガジンハウスから発行されていて、1986年創刊。今年で23年目を迎えます。
23年!すごいですね。では【編集長】って、どんなお仕事されるんですか?
編集長の主な仕事は、まず大きくは特集のタイトルをつけること、どんな特集にするかを決めることですね。そして指揮系統の中心にいつもいます
-“指揮系統の中心”というのは?
まず、記事のイメージを他の編集者に伝えます。編集者にはそのイメージを具現化し、さらに膨らませるよう動いてもらいます。そしてフォトグラファーにはそれを具現化するビジュアルを作ってもらいます。また、ライターさんにはその特集のテーマに沿った形で監修者にインタビューをし、記事を書いてもらいます。これらの動きの中心にいるのが僕ですね。

雑誌「Tarzan」
-なるほど。ちなみに、Tarzanの販売部数はどのくらいでしょうか?
実売部数で言うと、号平均で10万部強です。年間23号出しているので約230万部ですね。ただ、【腹を凹ます】といったキラーコンテンツのものは、30万部以上実売部数があります。
少しマニアックな、例えば昨年行ったものだと【カラダをつくる、三大栄養素の科学!】というテーマのものがあったのですが、これはきちんと運動をしている人には好評だったんです。バカ売れはしないんですが、作り手としてはそういうものも作っておきたいんですよ。だからけっこう部数ってバラバラですね。刷り部数は平均17、8万部ですが、平気で2倍ぐらい刷り部数が違ったりしますしね。
-そんなに違うのですね。ちなみに読者層はどのような方々ですか?
中心読者は3234歳の男性がほぼ8割、女性が2。ただ、【太らない食べ方】などの特集の場合は女性の比率も当然上がります。

雑誌を通して感動を共有

-学生時代は文学部だったとのことですが、就職先をマガジンハウスに決めた理由は何ですか?
単純に編集者になりたかったのが一番大きいですね。編集者になって人と感動を共有したり、難しい知識を分かりやすく伝えたり、そんなことをやりたかったんです。だから別にTarzanにこだわっている訳ではなく、例えば「次は女性誌に行って」と言われたらそこで頑張ると思います。
-誌面を通して“情報”や“想い”を伝えるって、とてもステキなお仕事ですよね。
はい。僕、学生時代に教員の資格を取ったんです。それは、「子ども達に何かを伝えて知識を共有したい」とか、やはり「伝えたい」という想いが一番大きかったんだと思います。その想いは今でも変わらないですね。
-でもなぜ編集者を選んだのですか?
学生の時、ある作家のところで書生としてアルバイトしていたんです。そこに出入りしている編集者達を見て「楽しそうな仕事しているな」と感じ、そしてずるずるとこちらの道に来てしまいました(笑)。
-学生時代から書くことは好きだったんですか?
もちろん、好きでした。
編集者なので書くことも大好きなんですが、写真をどう配置するかとか、ビジュアルを含めたトータルなものとしてどう伝えるか、ということを考えるのも楽しいですね。雑誌なのである意味“自由”なんです。例えば付録でDVDを付けたりもできるし、TarzanにはHPもあるのでそこでいろいろと展開したりできる。文章だけに留まらないところがこの仕事の魅力でもあります。読者と一緒に運動会やイベントをやったり、マラソンに挑戦する企画とかも行っているんですよ。これがまた楽しいんです。
-聴いているだけで楽しそうですね。
 今まで【ライター】と【編集者】の差がよくわからなかったのですが、大田原さんのお話を伺って明確になりました。
そうですね。ライターさんは記事をエンターテイメントにする作業があると思うんです。なのでライターさんはそのテーマを膨らませ、一つのストーリーを書き上げたりすることが主な役割だと思うんですが、僕たち編集者はライターさんが持っている知識やポテンシャルを雑誌の中でどう活かすか、「もし雑誌でなければ単行本はどうか」とか、そういうプランニングの部分に関わっているので、別の楽しみ方がありますね。

“日課”でなく“チャレンジ”を

- 昨年、39歳の時にTarzan編集長になられたとのことですが、その若さで編集長抜擢は異例ではないですか?
そうでもないですよ。
-でも、編集“長”ということですから、その雑誌のリーダーなわけで、「編集のプロ」であると同時に「リーダー的資質」も認められたといえるのではないでしょうか?
そんな大田原さんの仕事に対する姿勢というか、極める上で大切にしていることを教えてください。
いえいえ、極めてはないですよ。まだまだ欲もありますし、上もあると思っているので、今でも成長真っ只中。伸び盛り中です(笑)。
ただ、大切なのは「せっかくここにいるのだから楽しく仕事したい」ということだと思うんです。やっつけ仕事になったり、「まっ、いいか」と思ってしまったら、仕事はそこで完結してしまうと思うんですよね。あと、仕事を発展出来る人もいれば、“日課”で終わってしまう人もいます。なるだけ“日課”ではなく、失敗してもいいとは言わないですけど、チャレンジすることだと思います。チャレンジしないと広がらないので。その“広がり”をどこまで考えられるかというのは結構大事なのではないかと思うんです。
-そうですね。一つのことをどれだけ広げられるか、掘り下げられるかって大事ですね。
例えば、Tarzanを長く読んでくださっている方たちは、「また同じようなテーマか」と思うかもしれません。だって人間の体の仕組みとか構造ってそう変わらないじゃないですか。例えば「2009年は胃が二つ」とか(笑)。
-ないですね(笑)
だからテーマはそこまで大きく変わらない。でも、そうはいっても人間は飽きっぽいので「何か新しいことはないか」と思って雑誌を購入してくれると思うんです。だからこそ、その本の中で「似たようなことを言っているけど、このエクササイズはちょっと違う」とか「こんなレシピなら作ってみたい」とか、そういう提案があるかどうかが非常に大事なキーになります。その提案方法や見せ方をスタッフと話し合い、探していくんです。
-なるほど。
  お話を伺っていると、大田原さんが本当に仕事を楽しんでらっしゃるのが伝わってきます。
結局仕事は日常の作業の延長線なので、楽しまないともったいないと思うんです。
-でも編集長という立場になると、いろんな方を取りまとめないといけないと思うんです。中には本当はこっちの特集をやりたかったのに違う担当になってしまった、という方がいて、もちろん楽しめれば良いのですが、半分やっつけ仕事になってしまう方はいませんか?もしいた場合は編集長としてその人のモチベーションをどうあげるのでしょう?
雑誌のテーマは、僕が一番興味ある内容なんです。だから「ここが知りたいんだ。ここ一番大事だからもっときちんと調べてきてよ」と“熱く”言うしかないですね。そうすると、皆、最初はよくわかっていないけど、調べだし、そのうち意外と興味が出てきたりするみたいです。
-投げかけ方、伝え方が大事なんですね。
僕自身が全部取材して、まるまる一冊本を作ることができればそれに越したことはないですが、もちろんそうもいかないので。僕が知りたい事を、どこまで分かりやすく皆に伝えられるかが重要になってくると思います。実際うまく伝えられた号は売れていますしね。そして僕よりも編集者がどんどん楽しみ出したら、もう間違いなく、読者に絶対に支持される一冊になりますし。
-大田原さんは特集テーマなど、目の付け所が良いんだと思いますし、またその部分をわかりやすくスタッフに伝えているんですね。しかも熱意を持って伝えているからこそ、スタッフもモチベーションを保ちつつ“売れる雑誌”ができるんだと思います。
そうでありたいと思っていますね。でもなかなかそれが全部うまくいっていないので、まだまだ伸び盛りなんだと思います。
-目の付け所の良さは、どういったところにアンテナを張っていると「今回のテーマになりそうだな」と見つけることができるんですか?
結構悩みますよ。いろんな専門書を見たりしますし。僕、専門書大好きなんです。トレーナーやドクターの人が僕のデスクの周りを見ると「こんなの読んでるの?」とビックリされます。糖尿病関連の専門書とか。あと勉強会とかも行ったりしますね。

食と運動へのこだわり

-それだけお仕事を充実させるためには、健康管理が大事になると思うのですが、健康の礎となる【食・運動・睡眠】、なかでも大田原さんにとって【食】とはどんな存在ですか?
難しいですね。でも楽しみなことでもあるし、栄養摂取でもある。この2つでしょうか。
-どっちを重視されていますか?
どちらもですけど、仕事をしている時に食べる【食】は【楽しみの食】のほうが多いです。食事を通じて誰かと話したり、気持ちを切り替えたりする役割ですね。
今はあまりないですが、昔はとても大変な号が終わると、1人でご飯を食べに行っていました。【正しい和食】を食べに(笑)。
-本当ですか(笑)?
お刺身や煮物とか。編集作業中は「とりあえず味がしっかりしたもの」を食べていたから、最後は人間らしい「ちゃんとしたもの」「元気が出るものを」を食べるように、そんな儀式的なことをやっていました。
-大事ですよね、そういうこと。
 では、栄養を意識して摂られる時ってどんな時ですか?
忙しい時と、太りそうな時ですね。
-忙しい時に栄養を摂るんですね!素晴らしい!多くの人は、忙しいからついつい簡単に済ませてしまいがちですが・・・。
忙しい時に摂らないとまずいじゃないですか。そこで倒れるわけにはいきませんからね。あと食事で摂れない場合は、サプリメントも摂り入れたりしています。
-自分のお仕事で得た知識を実践しているんですね。
そうですね。
あと、職業的に太ったら格好悪いじゃないですか。僕は食べることが大好きで、本当は際限なく食べられるんです。だから自分でしっかりセーブするようにしています。そういえば、この間、夜中のラーメンにつき合わされたのは何年ぶりかっていうくらいですよ。
-すごい自己管理力ですね。ちなみにお酒はどうですか?
お酒は飲みます。でもつまみとかは気にします。揚げ物は食べないとか。あったら食べちゃうので、頼まないんです。
-素晴らしい!かなりの意志の強さですね。では、【運動】はいかがですか?
運動はハチャメチャですね(笑)。だいたい月に2回程は集中的に動く日があって、この前出場したのはデュアスロン(ラン・自転車・ラン)。それは短くて、5キロラン・30キロバイク・5キロラン でした。
-え!? それで短いんですかぁ。
あと先日、200キロバイクにも出ました。
-あまりさらっと言える距離ではないですが(笑)
昨年の12月はフルマラソン1本と240キロバイクにも出場しました。
-すごいですね!
でもそれだけカラダを追い込むと、ハンガーノック1 やディハイドレート2 とは何かが体感できるんですよ。
あと、運動する事で精神的なスイッチの切り替えが出来ると思うんです。例えば、上司に怒られても、フルマラソンを走ったら翌日そんなこと覚えてないですし、「フルマラソン走れたんだから、嫌なことがあっても頑張れる!」とも感じられると思います。ポジティブになれますよ。
-なるほど。確かにその通りだと思います。

▲トライアスロンに挑戦する大田原氏
                photo by Nakajima

Tarzanは一つのライフスタイル

-多分読者の方は、Tarzan編集部の方は皆運動をしているものだと思っているのではないでしょうか?
そうかもしれませんね。ただ全員がそうかと言ったらそうではないです。でも例えば太っている人がいたら、太った人の気持ちがよく分かる誌面を作れるし、栄養に興味がない人がいれば、その人にどう興味を持たせられるか、という風に考えたりします。
-いろんなタイプの方がいるのは誌面的にも良いのですね。
そうなんです。いろんな人がいて良いと思うんです。 でも間違いなくこれからTarzan読者の質は変わっていくと思うんです。
-というのは?
「運動があまり好きじゃない」という人が増える、ということかと考えています。現実問題、部活をやってない層が増えてきていますし。今後Tarzan読者は、そういう人たちの割合が増えてくると思うんです。
例えば健康診断でひっかかったり、太り過ぎて周りや彼女に文句言われたりとか、そういうことがあって「何か運動をやったほうがいいのかな」と感じる。でも、もともと運動は好きではないし…。そういう時に500円で買える健康情報ならばいいかなって。
-なるほど。

photo by Nakajima
Tarzanは、運動が好きな人のための雑誌でありたいと思いますが、運動が嫌いな人が読んだ時に“壁”がある雑誌であってはいけないとも思っているんです。だから編集部の中にいろんな人がいて良いし、いたほうが良い。でも、Tarzanにいる運動嫌いな人たちも、何年かすると運動始めたりするんです。ジムに行き始めたり、フルマラソンにはまったり。でもそれは、読者にも変われる“きっかけ”を与えられるということなんだと思います。
-波及効果がまずは編集部の中で起こり、それが世の中全体に起こっていくと良いですね。
あまり運動が好きでなかった人も、飛び込んでしまったほうが原稿を書きやすいし、楽しさも分かるし伝わりやすい。そうやってはまっていくんだと思います。
Tarzanは一つのライフスタイルです。でもそれは一過性の流行のライフスタイルではありません。Tarzanというライフスタイルマガジンは、一度始まってしまうと、本当に生活を変えなければいけないんです(笑)。実践し続けなければいけない。でも、もしあなたがこれを選択するならば、そこにアクティブに生活し続けられる喜びが必ずあるし、競技をする人ならばその競技を極めていけるかもしれない。一年中スポーツやフィットネスのあるライフスタイルを手に入れることができる。でも辞めたら体は元に戻ってしまいます。そして心も。「挑戦しよう」という気持ちもなくなってしまうかもしれません(笑)。

“きっかけ”をつくる雑誌に

-今後の夢や目標は何ですか?ご自身、そして雑誌としてもお聞かせください。
雑誌としては、今、誰もが考える健康的なライフスタイルというものが、どんどん日本に定着してきていると思うんです。そういう人たちにTarzanがお役に立てたら良いな、と思っています。考えを変えるきっかけになったり、始めるきっかけになったり…。そういう雑誌であれば良いなと思っているので、例えば528号の第一特集はけっこう実用的な【太らない食べ方】だったんですが、その第二特集は【ゴルフ入門】だったり。そういう風に「始めるきっかけ」になるページを入れていっています。
-運動しない人が見ても楽しめる雑誌ということですね。
そうありたいですね。
-では、大田原さんご自身の夢や目標は?
とりあえず、「仕事をしっかりやる」でしょうかね。でも体も動かしていたいですね、いくつになっても。今はランニング、トレイルランニング、自転車、ロードレース、マウンテンバイク。スノーボードも大好きだし、山歩きも時間があればやりたいですね。うーん、やりたいことだらけです(笑)。
-いいことですね!!
  ところで、レースの前の食事、考えてらっしゃいますか?
もちろん考えますよ。軽いカーボローディング※3 は当然しますし、お酒も控えます。

photo by Nakajima
-ちゃんとTarzanでの知識を活かしていますね。
途中でこまめに食糧補給していますし(笑)。


-今回お話を伺って感じたことは、大田原さんは有言実行されるし、ご自分のモチベーションを上げるのがとてもお上手なんですけれども、人のモチベーションを上げるのもお上手ですよね。だからTarzanの販売数も好調なんですね。
そんなことないですよ。
でも、Tarzanは読者に支えられていると思います。読者の方、それも知識を持った方などが、「こんなのどうだろう」って提案してくださることもあるんです。それが誌面になったこと何度もありますし。
-いい流れですね。
嬉しいですよね。良い読者に恵まれています。
-私もその一読者でいたいと思います。
ありがとうございます。
-今日はお忙しい中、どうもありがとうございました。


※「photo by Nakajima」の写真は中島 靖弘 氏(湘南ベルマーレトライアスロンチーム ヘッドコーチ)によるものです
※1 ハンガーノック:血中のブドウ糖・(グルコース)濃度が低下し、低血糖状態になり力が入らない状態
※2 ディハイドレート:脱水する
※3 カーボローディング:グリコーゲンを多く蓄えるため、炭水化物を効果的に取り入れる食事法。フルマラソンやトライアスロンなどに効果的。

編集後記

大田原さんと出会ってもうすぐ20年になります。きっかけは私がTarzan編集部にかけた一本の電話から。それがこんな風に今でも繋がっていられるのはとても嬉しいことです。
大田原さんの仕事に対する考え方は「まっすぐ、丁寧に、そして楽しんで!」。ハードな仕事も運動も、楽しんでやってらっしゃるから、周りまで元気になってしまう気がします(笑)。
これからも一緒に楽しい仕事が出来るよう、私も自分の道を極めていきま~す!
こばたてるみ
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